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くねくねとした道を通り、無限城ロウアータウンへの入り口を抜ける。全く変わらない。変わったところと言えば…あの余りある「陽」の気が少し薄れ、強烈すぎた「陽」が発する「闇」が薄れたことだろうか。
これからどうなるのか、そして自分たちはどうすれば良いのか。
恐らく、銀次が全てを握っているのだろう。…いや。
銀次が全てを握っている。ただ本人が分かっていないだけで。
ついでに本人は自分がいる場所もうまく説明できなかった。
どうにか聞き出して、IL奪還作戦の時、自分がいた場所と突き止めた時には、夜中という時間ではなかった。
「銀次さん!」
地下に入った所で声をあげる。何となく、無限城の中では彼に通じないはずがないと思ったからだ。
「銀次さん!」
ガコン
いきなり、近くにあったドアが開いた。やはり銀次に通じたのだと確信する。ドアの中は階段だ。
二人で、朝の静けさの中、階段を降りる。明かりがついているので視界はクリアーだ。
バタン
またドアが開いた。そこは廊下が続いている。明かりは一つの方向へとついている。できる限りのナビゲーションをしているつもりらしい。
「銀次さんらしいや。」と笑うと、朔羅もクスリと笑った。
二人で歩いていくと、やがて大きな扉の前へと出た。
「銀次さん!来ましたよ!」
この奥で、自分はILを作った。それからの時間があまりにも濃く、ずっと昔のように思えてしまう。
『MAKUBEX?』
どこかにあるスピーカーから聞こえる声。間違いなく、銀次そのもので。
知らず、息が漏れた。
『MAKUBEX、朔羅も来てくれた?』
「はい。雷帝。」
隣にいた朔羅が答える。
『ま、MAKUBEX、あの、さ。わ…わるいんだけど、ね。』
朔羅だけ、入ってきてほしい。と銀次は言った。その言葉に二人は顔を見合わせる。
「どうしてですか?」
『ま、MAKUBEXには見せるのは…ちょっと………』
「はぁ?」
仰角45度に首が曲がった。まるで分からない。
「とりあえずMAKUBEX、私、行ってきます。」
「…うん。わかった。何かあったらすぐに呼んで。」
自分も無限城の頭脳と呼ばれた身だ。どうにかできる。はず。
「雷帝、入ります。」
ギギッとその声に反応するようにドアが開き、人一人分のそれを確保する。
「では。」
朔羅はMAKUBEXに一礼すると、中へと入っていった。
中は真っ暗だった。
「雷帝?」
確かに気配はある。何故彼は明かりをつけないのだろう。
「雷帝…?」
「朔羅?」
少し遠くで小さな声があがった。
「はい!そうです!」
その声があまりにも…弱くて、離さないように声をあげる。
「良かった……困ってたんだ。」
少し高めで…半泣きの声。
ぽっとそこに明かりがつく。朔羅は小走りにそこへと向かう。
銀次ははたしてそこにいた。
「わーん!朔羅だぁ!久しぶり!」
とりあえず、「いつもの」Tシャツを着ていた。だぶだぶだが。
「ら…らい、てい?」
朔羅は珍しく困惑した。首が細くなり、なだらかで丸みを帯びた体つき。…そして、Tシャツを押し上げている二つの膨らみ。
「……おなかいたくて、下から血が出てきたんだ。」
とりあえずシーツを調達して、座ってたんだけど。と言った銀次は………
「…赤飯ですね。」
だからMAKUBEXを呼ばずに自分を呼んだのか、と朔羅はようやく理解した。
「ズボンがサイズが合わなくて、困ったんだ。」
「ら、雷帝、ズボンに血が付きますから、まずそのシーツを破いてたたんで…そこにあててください。」
主従関係というより、何も知らない小学生に教える保健室の先生レベルまで落ちた。
「あ、はい!」
銀次も分からず言われるがままに作業する。
「ズボンのベルト代わりに、シーツを細く破いて結びましょう。上は絶対にジッパーをおろさないでくださいね?」
「うん。わぁ!朔羅、頭いい!」
やっぱ朔羅に来てもらってよかったぁ。と銀次はほっとしていた。反対に朔羅はどうしましょうと困っていた。
とりあえず、このドアを開けて待っているMAKUBEXには違う方向を向いてもらうことにしましょう。服とか…。
………………………………………
………花月と相談しよう。
「雷帝、MAKUBEXが待っていますから、行きましょう。」
「うん。大丈夫?これで。」
「MAKUBEXに頼んで応援を求めるかもしれませんが、とりあえず大丈夫です。」
少年一人に女性「二人」というのは、かなり難しいかしら?とちょっと思いつつも、朔羅は銀次の手を握って、歩き出した。
「ま、MAKUBEX、びっくりするかなぁ?」
「まずは生きていることに大喜びすると思いますよ?」
あまりにも不安げに言う銀次に朔羅は苦笑しながら答えた。
その後はその姿になったと気づいて、顔を真っ赤にして花月に電話すると思いますけど。
ギギギ…とドアが開いた。
MAKUBEXが最初にしたことは、とりあえず自分たちの住まいを整えることだった。
急ぎマンションの一室を購入し、十兵衛と朔羅を同居人に、そして一番太陽の当たる南向きの部屋を、いつでもすぐに生活ができるように整えた。自分の部屋は…と考え、作業部屋にと、隣にもう一部屋買った。士度と花月に頼んで穴を開けてもらった。…ここら辺の考え方と方法は、無限城でも良くやっていたことなので別に構わなかったのだが、いかんせん違法建築ではなく「今どきの」建築である。壁の薄さと遮音性、断熱性に優れた最新のモノを使用していて、花月と士度を驚かせていた。隣の家(作業場)から家へのむき出しになった所はMAKUBEXの計算のもと、花月・雨流・朔羅で行った。
今まで冬はパソコンから出る熱で暖をとり、夏は冷却水をうまく利用して涼んでいたが、この家には敵わないと思う。床暖房に空気清浄機。そしてエアコン(掃除がいらないらしい)。人差し指一つでお風呂は沸くし、夜中に一人で出歩いてもすぐに死ぬような危険はない。
この「外」のあまりにも違う状況に、最初MAKUBEXも戸惑った。だが、持ち前のコンピュータ技術でどうにかした。無限城のコンピュータは全てあの混沌の中だ。銀次がもしも復活させていても、中のデータまではどうだか分からない。…分かっていたら、笑師のゲームデータは消してもいいとはちょっとだけ思うけど。
今、ここでキーボードを叩いている。それは自分にとっては「ちょっとした」仕事であるが、外の人たちの話によると、今まで持ち込まれていた「仕事」はどれも一筋縄ではいかないものだった(らしい)。
無限城出身者を甘く見るな、と言ってやりたい。
自分ほどではないにせよ、コンピュータを使う腕前の進化は外より無限城のほうが速い。「金をかけて」ではなく「命をかけて」コンピュータをいじるのだ。自然、淘汰されていく。その中の幾人かを新生VOLTSの中から引き抜き、ある程度のコンピュータ権限を与えて仕事を頼んでいたのだ。そこは無限城。ハッキング、クラッキングは日常茶飯事以前のものである。対抗措置なんて考えたらきりがない。
それをちょっと切り売りするだけで、とてつもない金額が入ってくる。ある意味無限城は、命と引き替えに手に入れることができる最後の「象牙の塔」なのかもしれない。
カタカタカタカタ…カチャン。
キーの音が止まった。ちょっと考えて頷き、何重ものプロテクトをかけたそれを相手のサーバに押し込んでやった。明日はその会社は大騒ぎかもしれない。14歳の作ったデータを保護するプロテクトの解き方で。
ふぅ、と息をつく。何事も少し切れた時が一番危険なことを無限城の者たちは良く知っている。無論、MAKUBEXも。
違うパソコンを見て、ちょっと考えた後、キーボードを叩き出す。ディスプレイに表示されたレポートを見てみると、相も変わらず無責任なデータが飛び交っている。少し苛々しながらキーを叩く。こちらは無限城用。少しずつではあるが、様々な所にバックアップを散らしておいたものが戻ってきているようだ。
(さすがは銀次さんだなぁ)
あの中のものを全てどうにかしたらしい。レポートには、99.9%のデータが取得できたとの報告が出ている。無限城のパソコンでないと、あのあたりのデータは取得できないなぁ…一度無限城に戻らないと。と考えていると、画面がいきなり黒く染まった。
「!」
馬鹿な、自分の作ったプログラムはあらゆる侵入者を拒むはずだ。だが。
『まくべす………』
コンピュータから流れてきた声にはっとなる。
「銀次さん?」
『まくべす………』
すぐにキーボードを叩く。2分ほどでできあがったそれは、銀次を(たぶん)このパソコンへ誘導するプログラム。すぐにケーブルの山の中からマイクを取り出す
「銀次さん?銀次さん!」
その声に反応したのだろう、先に休んでいた朔羅と十兵衛が起き出してくる。
『まくべす……?MAKUBEX?』
急に声がクリアになる。
「銀次さん!」
「雷帝?」
「えっ?」
三人が、じっと黒い画面を見続ける。声しか聞こえないのに、まるで画像がうつっているかのように。
『ごめんね。どうしてもだったから、お邪魔しちゃった。アクセスしているようだから入ってこられたんだけど。』
ちょっと入ってくるのに迷っちゃった。と、屈託のない声で言う。本当にこの人には敵わない。
「どうしたんですか?」
その言葉に、あ、う、とか声がきこえてくる。もしもここに士度や花月がいたら「話しづらくて困っている声」としていただろう。
「銀次さん!」
『ごめん。MAKUBEX。朔羅を連れて、無限城まで来て。』
とっても困っているんだ。という言葉に、答えは一つだった。
「今すぐ行きます!」
『…えーっと、今何時?』
「午前2時48分です。」
『明日の朝でいいよ。夜の無限城を動き回るほどのバカにはならないで。』
「でも…」
『うん。そのかわり、朝日が昇ったら家を出て。』
「そのくらい、お安いご用です。」
あなたのされたことに比べたら…。
『ごめんね、MAKUBEX。世話かけちゃって。朔羅にもそう謝っておいて。』
「朔羅は近くにいますよ。何でしたらカメラのドライバも入れましょうか?」
『いや…いいよ。MAKUBEXのさっき送信したデータをちらっと見ちゃったんだけど、すごいの作ってるみたいだし。』
「プロテクトは?」
『え…なんとなくいじってたら見られたけど……もしかしてダメだった?うわぁぁぁ、ゴメン!』
うわぁっと手をパンッとあわせて謝ってる姿が容易に想像がつく。
「いえ、いいんですよ。」
やはり無限城の者は甘く見るな。
MAKUBEXは一瞬うっそりと笑った後、銀次に位置を訊ねた。
蛮を送り出すことができた。
それだけでもう、十分だと思っていた。
MAKUBEXを送り出し、蛮を見つけた時、本当にどうしようか困ってしまった。
とりあえず、蛮の肉体も精神もこの中には存在した。だが、彼を縛っている魔法が頑丈な鎖となって、蛮の体と頭の行動をすべて停止させていた。すぐにその魔法(この中ではすべてのモノがデータ化する)を解析し、解き方を解明する。
「…サウスブロックの人達の記憶全部足しても…難しいかな?」
銀次は、蛮を最後にまわし、すべての人々の奪還と…初めて「奪う」ことをした。
記憶というパワーは、蛮の体の鎖をすべて破壊し、そして頭の殆どの鎖を破壊した。
だが、殆どは殆ど。100パーセントではない。
「蛮ちゃん…そうだよね。」
お父さんの記憶、お母さんの記憶、邪馬人さんの記憶…いっぱいいっぱいあるもんね。大事な、大事な記憶が。
俺に関する記憶がなくったって、生きていけるよね?
銀次は微笑むと、鎖の形状を変え、細いのにすると自分の記憶を占める場所にぐるりと巻き付けた。今は離すことはできない。時間がもしかしたら鎖を綻ばすことができるかもしれない。
死ぬ間際かもしれないけど。
「いいんだよ、蛮ちゃん。俺は忘れないから。」
ぽろり、と涙が落ちる。
「蛮ちゃんは、忘れて。」
卑弥呼ちゃんたちと、新しい道を歩いていって。光る道を。
「蛮ちゃん。ありがとう。元気でね。」
涙があふれる。銀次は出口を操作し、停めておいたてんとう虫の中に蛮を送り出した。
終わった。
混沌は消え、銀次は作っていた擬似的な子宮も消した。いつもの懐かしい無限城の一室に戻る。
ばさ。
「へ?」
すーかーすーかーとする下半身。見るとズボンはおろか、下着までくるぶしのあたりまで落ちている。
「なんで?」
屈もうとした時、胸に違和感。むにゅ。
「え?」
おそるおそる…考えたくなくても考えてしまった、それ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
見てしまった。見てしまいました。
自分の下半身についてたのが…ない。で、ないはずの所に…ある。
さっそく問題発生です。どうすればいいでしょう?
創世の王は、初めてベソをかいた。
ついつい弾んだ気分になるのは何故か。そして何故か沈んだものがどこかにある気になるのは何故か。
左を見る。誰もいない助手席。少し疑問。何気なしにシートに触る。もうすぐ夏に近いこの時期の温度しか伝えてこない。安心したのか、余計不安になったのかすら分からない。
ハンドルを切り、いつもの路肩へ駐車する。この所レッカーはないが駐禁切り部隊が出てくる。面倒だ。
いつものように…ドアを開ける。初夏の日差しに慣れた瞳が暗闇に慣れずにちかちかとハレーションを起こす。
「……ッス。ブルマン。」
波児がぽかーんとした顔をして自分を見ている。そして何故か…人が多い。
カラーン
見ると、夏実がトレーを落としている。何がそんなに驚く理由があるのかが分からない。
「おい、蛇ヤロー。」
奥のほうから、いつもの顔がでてくる。
「なんだよ。猿回し。」
「いつもの」口論になるかと思いきや、やや不思議そうに尋ねてくる。
「銀次は?」
「は?」
自分があまりにも変な顔をしていたのだろう。ヘブンがきいてくる。
「だから、銀ちゃんは一緒じゃなかったの?」
銀次?銀ちゃん?
「誰だ?そりゃ。」
ぽと。と波児のタバコが落ちる音が聞こえるくらい、周囲は静まった。何が起きた?
「お前、今までどこにいたんだ?」
ややあって、いれたてのブルマンを出してきながら波児が尋ねてくる。
「ああ。いつもの公園の「てんとう虫」の中だぜ?それが?」
その言葉に全員がああ…とため息をつく。何が起きているんだ?
自分…美堂 蛮の記憶がかなり欠落していることを理論だてて説明されて10分間。
無限城でしか生きていられないはずのパソコン小僧が外に出ているっつー時点で驚きだが、無限城のメンツが殆ど揃っているのにも驚いた。確かにパソコン小僧が整然とまくしたてたことだけはある。
だが。
「俺は俺が信用するまで事実とはうけとめねーんだよ。」
タバコに火をつけて、さっさと店を後にする。あーあー、やだねー。あんな辛気くさい顔は。寄ってたかって責めるようなまなざしは。
あーあー、やだねー。
ホントーに、嫌だ。かったりぃ。
確かに記憶の前は冬だったような気もするが…あやふやだ。
とりあえず、車に戻るとすんべぇ。なぁ…?
?
何、横を向いているんだ?
訳が分からなくなるぜ…ったく。老けたか?この美堂蛮様が?
少し頭が混乱しているらしい。車のドアを開けるとむわっとした空気が入ってくる。この短時間でだ。ちっ、日陰に移動だ。
高架下に移動して、車を止めると、窓を全開にして考える。
あーっ!駄目だ。思い出せねぇ。
寝るか。と寝だしたら、後にゃ止まらねぇ。
起きたら次の日でやんの。たまんねーね。…全く。
さて、と。どうするかねぇ、これから。
なんかHONKY TONKにゃ近寄らないほうがいいようだし。ヘブンの電話待ちだな。
っかー、ビラ配りかよ。面倒だ。
それよか、公園で顔洗うか。
移動だ、移動。それから考えよう。
そうしよう………
波児「まだ決めてないのか?」
まく「難しいものですね。こういうのはなかなか…誰かに決めてもらおうか。」
笑師「ならMAKUBEXやから最初に「す」の名前が入らないといけまへんなぁ。」
士度「俺らは全員MAKUBEXで慣れちまってるからな。」
まく「そう…ですか。」
花月「す…で始まる名前…ねぇ。」
十兵衛「…すぶた…」
朔羅「…貴方にネーミングセンスはないのは知ってるから黙ってなさい。」
十兵衛「……分かった。姉者。
花月「……相変わらず厳しいね、朔羅。」
朔羅「ええ。センスはありませんから。」
笑師「まくべ…するめ?」
花月「どこまで落ちるんですか?笑師。」
笑師「はは…ジョーダン、ジョーダンですわ。」
士度「難しい…意外と。寸止め、雀、諏訪大社…」
柾 「…連想ゲームじゃないぞ、お前。」
ひみ「素でヒッキーって聞いてたから、すひき…」
全員「………………蛮の妹だ。」
ひみ「どういう意味?」
へぶ「そのまんまの意味ね(ため息)。」
まく「やっぱり銀次サンが戻ってから決めてもらおう。」
全員「それもどうだと思うけど?」
波児「(…卑弥呼ちゃんと同じことを言おうとしていた俺も…なのか?)」
夏実「あれ?マスター、どうしたんですか?」
レナ「顔色悪いですけど…?」
波児「い、いや、何でもない。」