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MAKUBEXが最初にしたことは、とりあえず自分たちの住まいを整えることだった。
急ぎマンションの一室を購入し、十兵衛と朔羅を同居人に、そして一番太陽の当たる南向きの部屋を、いつでもすぐに生活ができるように整えた。自分の部屋は…と考え、作業部屋にと、隣にもう一部屋買った。士度と花月に頼んで穴を開けてもらった。…ここら辺の考え方と方法は、無限城でも良くやっていたことなので別に構わなかったのだが、いかんせん違法建築ではなく「今どきの」建築である。壁の薄さと遮音性、断熱性に優れた最新のモノを使用していて、花月と士度を驚かせていた。隣の家(作業場)から家へのむき出しになった所はMAKUBEXの計算のもと、花月・雨流・朔羅で行った。
今まで冬はパソコンから出る熱で暖をとり、夏は冷却水をうまく利用して涼んでいたが、この家には敵わないと思う。床暖房に空気清浄機。そしてエアコン(掃除がいらないらしい)。人差し指一つでお風呂は沸くし、夜中に一人で出歩いてもすぐに死ぬような危険はない。
この「外」のあまりにも違う状況に、最初MAKUBEXも戸惑った。だが、持ち前のコンピュータ技術でどうにかした。無限城のコンピュータは全てあの混沌の中だ。銀次がもしも復活させていても、中のデータまではどうだか分からない。…分かっていたら、笑師のゲームデータは消してもいいとはちょっとだけ思うけど。
今、ここでキーボードを叩いている。それは自分にとっては「ちょっとした」仕事であるが、外の人たちの話によると、今まで持ち込まれていた「仕事」はどれも一筋縄ではいかないものだった(らしい)。
無限城出身者を甘く見るな、と言ってやりたい。
自分ほどではないにせよ、コンピュータを使う腕前の進化は外より無限城のほうが速い。「金をかけて」ではなく「命をかけて」コンピュータをいじるのだ。自然、淘汰されていく。その中の幾人かを新生VOLTSの中から引き抜き、ある程度のコンピュータ権限を与えて仕事を頼んでいたのだ。そこは無限城。ハッキング、クラッキングは日常茶飯事以前のものである。対抗措置なんて考えたらきりがない。
それをちょっと切り売りするだけで、とてつもない金額が入ってくる。ある意味無限城は、命と引き替えに手に入れることができる最後の「象牙の塔」なのかもしれない。
カタカタカタカタ…カチャン。
キーの音が止まった。ちょっと考えて頷き、何重ものプロテクトをかけたそれを相手のサーバに押し込んでやった。明日はその会社は大騒ぎかもしれない。14歳の作ったデータを保護するプロテクトの解き方で。
ふぅ、と息をつく。何事も少し切れた時が一番危険なことを無限城の者たちは良く知っている。無論、MAKUBEXも。
違うパソコンを見て、ちょっと考えた後、キーボードを叩き出す。ディスプレイに表示されたレポートを見てみると、相も変わらず無責任なデータが飛び交っている。少し苛々しながらキーを叩く。こちらは無限城用。少しずつではあるが、様々な所にバックアップを散らしておいたものが戻ってきているようだ。
(さすがは銀次さんだなぁ)
あの中のものを全てどうにかしたらしい。レポートには、99.9%のデータが取得できたとの報告が出ている。無限城のパソコンでないと、あのあたりのデータは取得できないなぁ…一度無限城に戻らないと。と考えていると、画面がいきなり黒く染まった。
「!」
馬鹿な、自分の作ったプログラムはあらゆる侵入者を拒むはずだ。だが。
『まくべす………』
コンピュータから流れてきた声にはっとなる。
「銀次さん?」
『まくべす………』
すぐにキーボードを叩く。2分ほどでできあがったそれは、銀次を(たぶん)このパソコンへ誘導するプログラム。すぐにケーブルの山の中からマイクを取り出す
「銀次さん?銀次さん!」
その声に反応したのだろう、先に休んでいた朔羅と十兵衛が起き出してくる。
『まくべす……?MAKUBEX?』
急に声がクリアになる。
「銀次さん!」
「雷帝?」
「えっ?」
三人が、じっと黒い画面を見続ける。声しか聞こえないのに、まるで画像がうつっているかのように。
『ごめんね。どうしてもだったから、お邪魔しちゃった。アクセスしているようだから入ってこられたんだけど。』
ちょっと入ってくるのに迷っちゃった。と、屈託のない声で言う。本当にこの人には敵わない。
「どうしたんですか?」
その言葉に、あ、う、とか声がきこえてくる。もしもここに士度や花月がいたら「話しづらくて困っている声」としていただろう。
「銀次さん!」
『ごめん。MAKUBEX。朔羅を連れて、無限城まで来て。』
とっても困っているんだ。という言葉に、答えは一つだった。
「今すぐ行きます!」
『…えーっと、今何時?』
「午前2時48分です。」
『明日の朝でいいよ。夜の無限城を動き回るほどのバカにはならないで。』
「でも…」
『うん。そのかわり、朝日が昇ったら家を出て。』
「そのくらい、お安いご用です。」
あなたのされたことに比べたら…。
『ごめんね、MAKUBEX。世話かけちゃって。朔羅にもそう謝っておいて。』
「朔羅は近くにいますよ。何でしたらカメラのドライバも入れましょうか?」
『いや…いいよ。MAKUBEXのさっき送信したデータをちらっと見ちゃったんだけど、すごいの作ってるみたいだし。』
「プロテクトは?」
『え…なんとなくいじってたら見られたけど……もしかしてダメだった?うわぁぁぁ、ゴメン!』
うわぁっと手をパンッとあわせて謝ってる姿が容易に想像がつく。
「いえ、いいんですよ。」
やはり無限城の者は甘く見るな。
MAKUBEXは一瞬うっそりと笑った後、銀次に位置を訊ねた。
蛮を送り出すことができた。
それだけでもう、十分だと思っていた。
MAKUBEXを送り出し、蛮を見つけた時、本当にどうしようか困ってしまった。
とりあえず、蛮の肉体も精神もこの中には存在した。だが、彼を縛っている魔法が頑丈な鎖となって、蛮の体と頭の行動をすべて停止させていた。すぐにその魔法(この中ではすべてのモノがデータ化する)を解析し、解き方を解明する。
「…サウスブロックの人達の記憶全部足しても…難しいかな?」
銀次は、蛮を最後にまわし、すべての人々の奪還と…初めて「奪う」ことをした。
記憶というパワーは、蛮の体の鎖をすべて破壊し、そして頭の殆どの鎖を破壊した。
だが、殆どは殆ど。100パーセントではない。
「蛮ちゃん…そうだよね。」
お父さんの記憶、お母さんの記憶、邪馬人さんの記憶…いっぱいいっぱいあるもんね。大事な、大事な記憶が。
俺に関する記憶がなくったって、生きていけるよね?
銀次は微笑むと、鎖の形状を変え、細いのにすると自分の記憶を占める場所にぐるりと巻き付けた。今は離すことはできない。時間がもしかしたら鎖を綻ばすことができるかもしれない。
死ぬ間際かもしれないけど。
「いいんだよ、蛮ちゃん。俺は忘れないから。」
ぽろり、と涙が落ちる。
「蛮ちゃんは、忘れて。」
卑弥呼ちゃんたちと、新しい道を歩いていって。光る道を。
「蛮ちゃん。ありがとう。元気でね。」
涙があふれる。銀次は出口を操作し、停めておいたてんとう虫の中に蛮を送り出した。
終わった。
混沌は消え、銀次は作っていた擬似的な子宮も消した。いつもの懐かしい無限城の一室に戻る。
ばさ。
「へ?」
すーかーすーかーとする下半身。見るとズボンはおろか、下着までくるぶしのあたりまで落ちている。
「なんで?」
屈もうとした時、胸に違和感。むにゅ。
「え?」
おそるおそる…考えたくなくても考えてしまった、それ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
見てしまった。見てしまいました。
自分の下半身についてたのが…ない。で、ないはずの所に…ある。
さっそく問題発生です。どうすればいいでしょう?
創世の王は、初めてベソをかいた。